Career Break Journal

「空白期間」を地域の力に変える。キャリアブレイク中の11人が、岡山・真庭に1ヶ月以上いた。

「空白期間」を地域の力に変える。キャリアブレイク中の11人が、岡山・真庭に1ヶ月以上いた。

14人。

むしょく大学を通じて、岡山県真庭市にたどり着いた人の数だ。そのうち11人が、1ヶ月以上この地に滞在した。町のイベントに飛び込み、地域の仕事を手伝い、なかには移住者仲間と民泊事業を準備している人がいたり、今も真庭に生きている人がいる。

この数字は、広告費をかけて集めたものではない。無職酒場という一枚のSNS写真と、一通のDMから始まった関係から生まれた。

[インタビューイー紹介]

森貴充さん|ローカルキャリア真庭 プログラムディレクター/郷宿1764 代表

映像・教育・飲食 など、幅広く活動するパラレルワーカー。2024年4月に地元である真庭市にUターンし、真庭市を『キャリアのインフラがある街』にするべくまちづくりに取り組む。酒場とゲームが人生の糧

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むしょく大学とは何か

むしょく大学は、キャリアブレイク研究所が運営する、キャリアブレイク中の人たちのオンラインコミュニティだ。「むしょく(無職)」という言葉をあえて名前に冠することで、離職・休職という選択を恥じるものではなく、次のステップへ向かう自発的な移行期間として捉え直すことを目指している。数千人規模のコミュニティには、会社を辞めた人、休職中の人、育児や介護を経て再出発を模索している人など、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちが集まっている。

コミュニティの中では、講座や対話の場が日常的に開かれている。自分の状況を言葉にする機会が多く、メンバーは徐々に「自分のことを話す」ことに慣れていく。これが、のちに地域と出会ったとき、思わぬ力を発揮する。

「キャリアブレイク」という言葉との出会い

森貴充さん(通称・もりぞーさん)が初めてキャリアブレイク研究所を知ったのは、2023年の夏だった。Twitterのタイムラインに流れてきた一枚の写真。下北沢で開催された「無職酒場」のイベントレポートだった。

「その写真を見た瞬間、すごいなと思ったんです。離職とか休職って、普通はショッキングな出来事じゃないですか。でも、そこに集まってる人たちが、なんか堂々としてる。自分の選択を正解にするために動いてる人たちの雰囲気がして。」

「キャリアブレイク」という言葉も、そのとき初めて知った。ただの空白期間ではなく、意味を能動的に再構築する時間として定義されたその概念に、もりぞーさんは強く共鳴した。

そしてすぐに、キャリアブレイク研究所の理事で無職酒場の主催者であるまっくすさんにDMを送った。「無職酒場をやりたいです」と。

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真庭という場所

岡山県北部に位置する真庭市は、アクセスが決して良いとは言えない地域だ。岡山駅から車で1時間半。高速バスを使えば乗り換えなしで来られるが、それでも都市から「遠い」という感覚は否めない。

しかしこの「遠さ」こそが、真庭の魅力の一つでもある。

城下町・勝山を中心とするこの地には、スパイスバーとアイアンクラフトを掛け持ちする人、カフェとバリ舞踊を両立する人、カレー屋と商品開発を行き来する人——複数の「なりわい」を自分で組み合わせて生きるローカルプレイヤーたちが集まっている。年間約50人のペースで移住者が増えており、官民一体でまちおこしに取り組む文化が根付いている。

もりぞーさんはこの真庭で、「ローカルキャリア真庭」というプログラムを運営している。

ローカルキャリア真庭とは

ローカルキャリアは、地方滞在型のキャリアスクールだ。ローカルキャリア真庭は、従来のローカルキャリアの強みと真庭の強みを掛け合わせたオリジナルのプログラムで、現在はフランチャイズという形で運営している。これまで国内外11拠点・累計1,300名以上の卒業生を輩出してきた実績を持つ。

真庭のプログラムは1ヶ月間。もりぞーさんがオーナーを務める真庭市内のシェアハウス「郷宿1764」に滞在しながら、Webスキルの習得、キャリア設計、実際の案件獲得・納品までを一貫して経験する。費用は受講料(2週間プランで99,000円/1ヶ月プランで198,000円)と滞在費(47,000円~65,000円)を合わせて用意が必要だが、過去受講生の期間中平均受注額は50,059円というデータもある。

ただし、もりぞーさんがこのプログラムで大切にしているのは、スキルを身につけることだけではない。

「Webスキルは「枝」です。でも根っこがなければ枝は伸びない。自分が何をしたいのか、どう生きたいのか、その根っこを張ることの方が本当は大事で。1ヶ月の滞在を通して、その根が少しでも深くなってほしいと思ってる。」

無職酒場から始まった関係

無職酒場は、もりぞーさんが自ら企画した。常連客がいた酒場の一角に、むしょく大学のメンバーが流れ込んできた。

「みんな、堂々としてたんですよ。休職とか退職って、普通は悲観的に捉えがちじゃないですか。でもむしょく大学の人たちは、自分の選択を正解にするために動いてる感じがして。決意みたいなものを全員から感じた。」

その印象が、もりぞーさんのコラボへの確信を深めた。もりぞーさんはかつて、ローカルキャリアの前身「田舎フリーランス養成講座(いなフリ)」にも関わっており、休職・退職した人たちが未来への希望を持って動いている姿を見てきた。

「むしょく大学の人たちから、まったく同じ毛色を感じたんです。ここにも、自分が好きな人たちがいると思った。」

以来、むしょく大学とのオンラインでのコラボ授業は定期的に続いている。2024年12月から始まり、計3回・のべ50名近くが参加した。コラボ授業は集客の場であるだけでなく、もりぞーさんにとっては「出会いの場」でもある。

「受講に至らなくても、DMをくれる人がいる。一緒に話してると、その人が今何に悩んでるかが見えてくる。それだけで十分だと思ってる。趣味みたいな感じで、お互いに時間を過ごしてる。」

来る理由を、地域がつくる

広告を使わない理由

ローカルキャリア真庭の集客は、SNSとコミュニティへの呼びかけが中心だ。広告は使っていない。

「広告を打てばパイは広がる。でも滞在場所のキャパも、伴走できる人数にも限界がある。それより、来てほしい人と来れる人が重なってるコミュニティに直接声をかける方が、ずっと効率がいい。」

「来てほしい人」と「来れる人」——この二つが重なる場所として、むしょく大学はきわめて合理的な集客先だともりぞーさんは言う。

来てほしい人:コミュニケーションを怖がらず、自分のことを話せて、他人のことを知りたいと思っている人。

来れる人:1ヶ月間、仕事を離れて滞在できる状況にある人。

「キャリアブレイク中の人は、両方の条件を満たしてることが多い。そしてむしょく大学のメンバーは、コミュニティの中でずっと対話を重ねてきているから、すでに自分の言葉を持っている。」

「掘りやすい」という言葉の意味

もりぞーさんは、むしょく大学の参加者について「掘りやすい」という言葉を使う。

「受講生と向き合うとき、まず心身の状態を確認することから始めます。そこから一緒にほぐしていく。この掘り下げのスピードが、むしょく大学の方々は圧倒的に速い。自分のことを話すことに慣れているから。」

ケアとコーチングとスキルトレーニングを同時に行うこのプログラムでは、受講生の「内側」にアクセスできるかどうかが成果の質を決める。その意味で、日常的に対話を積んできたむしょく大学のメンバーは、プログラムとの相性が高い。

「むしょく大学が文化として、オープンマインドを醸成してくれている。その上で、僕らが一対一で向き合って、一番奥にある硬い鎖をカキンって外す。そういう役割分担ができていると思ってます。」

11人が、真庭に1ヶ月以上いた。

これまでむしょく大学を通じて真庭にたどり着いた人は14人。そのうち11人が、1ヶ月以上この地に滞在した。

「滞在した」というのは、観光ではない。生活をした、ということだ。

「環境を変える」ことが、人を変える

「休職中で実家にいる方が多いんですよ。1ヶ月だけ来てみようかという気持ちで来るんですけど、帰ったあと、環境を変えることで起こる自己の変容に気づいてくれる人が多くて。その後、数ヶ月、あるいはそのまま移住、という流れになる方がめちゃめちゃ多いです。」

環境を変えることが人を変える。キャリアブレイク中の人にとって、「場所を変える」という選択肢は、思いのほか強力な変容の引き金になる。

それはキャリアブレイク研究所が提唱する考え方とも深く重なる。キャリアブレイクとは、ただ休むことではない。自己内省と新しい体験が交差する時間の中で、次の自分を能動的に構築していくプロセスだ。

町に溶け込んでいく

滞在中の参加者は、プログラムを受けるだけでなく、町にも出ていく。

気づいたら町のイベントにいる。準備を手伝っている。アルバイトスタッフとして入っている。もりぞーさんが段取りをするわけでもなく、自然にそうなっていく。

「町の人たちが、来た人を「おお、いいぜ」って温かく迎えてくれるんですよ。その雰囲気の中で、内気だった人も、気づいたら能動的に動き出してる。」

もりぞーさんは、参加者と地域の橋渡しを意識的にやっている。ただし、最初の接点のスピード感は慎重に設計する。

「ど頭からドカーンと集めると、拒絶になっちゃう人もいる。最初に繋ぐ地域の人は、水慣らしが上手な人を選ぶ。徐々にほぐしていく感じで。」

今期(第3期)からは、地域事業者や移住者4名を「地域メンター」として正式に起用した。自分のペースで地域と関わることができる設計になっている。

「納得するキャリア」への着地

もりぞーさんが最終的に大切にしていることは、参加者が町のイベントに出たかどうかでも、案件を何件取ったかでもない。

「自分が納得できるキャリアに着地していくこと、それが一番大事なんです。それがお互いにとって幸福度の高い着地になる。」

その意味で、長期滞在は単なるプログラムの延長ではない。参加者が真庭という場所の中で自分を試し、地域の人と関わり、自分の生き方の輪郭を掴んでいくプロセスだ。

11人が1ヶ月以上いたという事実は、プログラムの成果指標ではなく、「ここにいると、自分が見えてくる」という体験の蓄積として読まれるべきだろう。

2026年05月06日

PARTNER

ローカルキャリア真庭

ローカルキャリア真庭

森貴充

映像・教育・飲食 など、幅広く活動するパラレルワーカー。2024年4月に地元である真庭市にUターンし、真庭市を『キャリアのインフラがある街』にするべくまちづくりに取り組む。酒場とゲームが人生の糧

WRITER

東 信史

東 信史

キャリアブレイクアカデミー責任者 / 一般社団法人キャリアブレイク研究所 理事

キャリアブレイク研究所理事。一時的な離職や休職を肯定的に捉えるキャリアブレイクを文化にする活動に取り組む。キャリアブレイク中の方々が互いに学び合う場「むしょく大学」の運営や「いま無職」の人が無料で食べ飲みできるポップアップイベント「無職酒場」の店主、キャリアブレイクビールの開発などを企画。また、キャリアブレイク中の方のサードプレイス開拓を行い、約100団体の連携先を見つけ、さまざまな選択肢づくりを推進。現在は、愛知県岡崎市で妻と娘と3人暮らしながら、まちづくりのお仕事や大学講師、NPO理事をしている。「ワクワクの種を配るひと」

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