立ち止まる時間が、主体性の起点になるーーセルフリーダーシップを育む自分宛ての手紙

ただ受け止めてくれる場所を、私たちは持っているか
忙しい毎日の中で、自分のことを考える時間はありますか。
そう聞かれて、すぐに「ある」と答えられる人は、どれくらいいるのでしょうか。仕事をこなし、役割をこなし、周りと自分を比べながら一日が終わっていく。そのこと自体はもう、当たり前になりすぎていて、疑うことすら忘れてしまっている。
「LetterMe」代表の西村静香さんは、そんなことに違和感を感じていたそう。
役割に自分が支配されている実感。会社の中でのマネージャーという役割、妻や母、娘という役割。そして、常に何かと比較して自分を測ってしまう感覚。西村さんが30歳の頃に抱えていたというこのモヤモヤは、多くの働く人にとって、決して特別な感情ではないはずだ。
そしてもう一つ、西村さんの起業の背景には、社会の構造そのものへの違和感があった。人材紹介という業界の内側を知る中で見えてきたのは、「悩み相談のつもりで」開かれたはずの場が、結局は転職という出口に誘導されていく構造だったという。
フラットに自分の人生とかそういうのに向き合っていく、見つめる時間がなくて、結局最後、出口は何か売られるとか何かさせられるサービスばかり
答えを与えずに、ただ向き合わせてくれる場所は、驚くほど少ない。それがLetterMeという場所の出発点だった。
手放すと、何が出てくるのか
LetterMeは、月に一度、40分間のオンラインの時間「LetterTime」に参加し、先月自分が書いた手紙を読み、今の気持ちを新しい手紙に綴るという、とてもシンプルなサービスだ。月額1,650円。答えも、解決策も提示されない。

答えは何もくれないし、『こうしたらいいですよ』っていう解決方法が与えられる場では一切ない。
このサービスが果たしている役割を、西村さんは「自分に戻るリズムをつくる」という言葉で表現する。
LetterMeのユーザーを支えられているという実感がある。何かを教えるとか与えるっていう役割ではないが、その方の中にあるものを、外に出す場として機能している。
キャリアブレイクが数週間、数か月という単位で人生や社会を見つめ直すのに対して、LetterMeは日常の中の40分。小さなキャリアブレイクと言っても過言ではない。同じ構造を持つ、時間のスケールが違う体験だということだ。
そして、その構造の核心にあるのが「手放す」という感覚だった。LetterMeのガイドは、参加者にこう語りかけるという。
この時間はいろいろ全て手放して、ありのままの自分になって。
西村さんは、あるユーザーから借りたという言葉を使って、人の中にある3つの自分について語ってくれた。目の前のことを「対処する自分」。社会性があって理性的な「長老的な自分」。そして、素直な好き嫌いを持つ「子供の自分」
手放すことの反対は抱えるということだとすると、抱えてる時って役割とか仕事とかタスクとか……対処する自分と長老みたいな自分で過ごしている状態で、子供の自分ってなかなか出せない状態だと思うんです。けど、キャリアブレイク中は、対処する自分も、長老である自分も手放すっていうことにつながると思っていて、子供の自分が出やすい時間になる。
日常を回すための鎧を脱いで、素直な自分に戻る時間。それがLetterMeであり、キャリアブレイクなのだ。
子供になる、素の自分に戻る、というと、わがままのように聞こえるかもしれないが、その素直な想いが「セルフリーダーシップ」の起点になると西村さんは言う。
むしょく大学との共催セミナーには31名の申し込み
2024年10月、実際の形になった。むしょく大学とLetterMeのコラボ授業「1ヶ月後の自分に手紙を書く」自分フルネス体験会である。

むしょく大学は、登録者が2,500名を超えるキャリアブレイクコミュニティである。一般社団法人キャリアブレイク研究所が運営しており、様々なサードプレイスのみなさまとのコラボレーションを行っている。
コラボの狙いについて、西村さんは率直に語ってくれた。
キャリアブレイクという文化への共感は、大前提ありました。あとは、シンプルにむしょく大学の人がLetterMeのユーザーになってくれたらいいなって。
予約は31名。開催後の反響について、西村さんはこう振り返る。
やった後の皆さんの感想を聞いて、やっぱりLetterMe的な時間をみんな今求めてるんだなと思った。
そして、イベント後も継続的にLetterMeを利用している人も数名いるようだ。
企業にセルフリーダーシップを届ける
このコラボは、個人向け(toC)の接点として生まれたものだった。けれど、LetterMeにはもう一つの顔がある。企業向け(toB)の展開だ。

現在LetterMeは、企業の社員向けにメンタルヘルスやウェルビーイングの文脈でサービスを提供している。そして西村さんは最近、その先にある価値を、新しい言葉で捉え直したという。それが「セルフリーダーシップ」だ。
自分自身との繋がりが人と組織の力を引き出すと思うんです。そのセルフリーダーシップを育むプログラムとして、LetterMeを企業でもご利用いただけるようにしている。
自分を整える時間の先に、ウェルビーイングがあって、その土台の上にセルフリーダーシップが育まれる。さらにその先に、周囲へのリーダーシップの発揮へとつながっていく。
ただし、この考え方を企業の中に持ち込むことには、簡単には解消できない葛藤もあるという。
経営者とか、その幹部の方からの目線でいくと、いかに社員に主体的に働いてもらって、生産性を上げるかというのが主眼にある。だから、ウェルビーイングって言っても、社員の甘えを生むんじゃないかとか、社員がわがままになるんじゃないかとか、そう構えるところがあって。
主体性を引き出したい気持ちと、それが甘えやわがままに見えてしまう気持ちと。このジレンマを西村さんは「北風と太陽」の話に重ねて語ってくれた。
その人の可能性やその人の個人の主体性を信じるっていう、なんか多分関わり方だと思うんです。私自身が、北風よりも太陽の方がいいという、太陽を信じたいという側の意見なんだなって自覚していて。
このセルフリーダーシップという切り口は、キャリアブレイク研究所が企業や人事の現場で伝えている「主体性は、自分を満たすところから始まる」という考え方とも、よく重なる。
LetterMeやキャリアブレイクによって、セルフリーダーシップが高まり、企業にとっても良い文化になるように、お互いを高めていきましょうとインタビューを終えた。
2026年07月11日
PARTNER

LetterMe
西村 静香
株式会社LetterMe 代表取締役CEO。和歌山大学卒業後、新卒でパーソルキャリア(旧インテリジェンス)株式会社に入社し、求人広告営業、チームマネージャー、キャリアアドバイザーを経験。約8年間の勤務を経て2020年2月に退職し、株式会社uni'queの女性起業家輩出インキュベーション事業「Your」から、同年12月に「LetterMe」をリリース。2022年4月に株式会社LetterMeを設立し、事業を拡大している。個人向けのサブスクサービスに加え、企業向けプログラム「LetterMe business」も展開中。
WRITER

北野 貴大
代表理事 / 一般社団法人キャリアブレイク研究所
2014年にJR西日本グループに新卒で入社し、都市開発に従事。妻のキャリアブレイクをきっかけに、キャリアブレイク中の人のための宿「OKAYU HOTEL」を2021年にスタート(現在は奈良で運営中)。退職後、一般社団法人キャリアブレイク研究所を理事2人と共に2022年に設立。2023年より、大阪公立大学大学院経営学研究科付属イノベーティブシティ大阪ラボ特別研究員。
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