Career Break Journal

キャリアブレイク経験者が地域滞在プログラムをつくっている理由

キャリアブレイク経験者が地域滞在プログラムをつくっている理由

島根県奥出雲町・「奥留学」企画者に聞く、地域で見つけたキャリアブレイクとの親和性

島根県奥出雲町。広島県との県境に位置する、人口約1万人の中山間地域だ。その中でも、石亀ゴローさんが拠点を置くのは人口約600人の集落。空き家の多いこの集落で、ゴローさんは2週間の地域滞在プログラム「奥留学」を企画している。地域滞在プログラムで滞在者を受け入れた人数は今年で18名になる。

ゴローさん自身も、移住前に「仮移住期間」と呼べる時間を過ごした経験を持つ。会社を辞め、日本一周の旅に出て、たどり着いたのが奥出雲だった。その原体験を元にして、奥留学という仕組みを作った。

なぜ「移住促進」や「関係人口創出」の取り組みをしている中で地域とキャリアブレイクの相性が良さそうと思ったのか。そして、それが地域づくりの実務にどう落とし込まれているのか。話を聞いた。

退路を断って、旅に出た

就職活動では「自分自身も誰かに影響を与えられる人になりたい」という思いから人材系企業を選び、入社後は淡路島で地方創生事業に携わった。

2020年に入社、コロナ禍が社会を覆う中で働き始めたこともあって、将来への漠然とした不安が募っていった。働きながら自分のやりたいことを突き詰めた結果、「会社員としてではなく、一個人で地域に飛び込みたい」という思いが固まる。

退職を先に決めて、その後で旅に出た。順番にはこだわりがあった。

自分自身、追い込まれないと頑張れないタイプだとわかっていたので。退路を断たないと、甘えるし逃げるだろうなと思っていました。

当時持っていた車に寝袋を積んで、道の駅や無料の公園に泊まりながら、新たな地域との出会いを求めて日本中を巡った。

旅の途中で立ち寄った先は、知人がいる場所、地方創生で有名な地域など。

地域を巡り、いろんな人の生き方を知っていくと、自分はどう生きるかという問いが生まれる。考えさせられる場所には、積極的に行くようにしていました。

当時、「キャリアブレイク」という言葉を意識していたわけではない。ただ、旅の途中でnoteの記事などを通じて、その言葉自体は目にしていたという。

肩書を外したら、何が残るのか

旅の前半は、開放感と高揚感に包まれていた。だが時間が経つにつれ、感覚は変わっていく。社会の一員として働く人たちの姿が目に入るたびに、「今の自分は社会に接続していない」という感覚が募った。

「何をやっているの」と聞かれても、今していることを仕事として説明できないことは初めての経験できつかった。まさにキャリアブレイクの書籍にある5段階と同じような波を辿ったそう。

前職が大きな会社だったから、名前を言えば伝わっていた。でも肩書を外した自分に何が残るんだろう、というのはすごく考えさせられました。

自分と向き合う中で、幼少期に絵を描いて人を喜ばせるのが好きだったことを思い出し、絵を描いたり文章を書いたりする時期もあった。だが、最終的に戻ってきたのは就職活動のときに感じた「町おこしや地方創生を軸に人に影響を与えられる人になりたい」という思いだった。

最終的に就職活動で考えた原点に戻ってこられた。その時の自分は、キャリアブレイク前のモヤッとして言葉にできなかった自分より、すっきりしていました。迷いがなくなったのが大きかった。

振り返ってゴローさんが語るのは、「内省する時間」と「新しい体験やインプット」を往復することの大切さだ。

内省と新しい体験を、ずっと往復していました。だからこそキャリアブレイク中は、その往復がすごく大事なんじゃないかと感じています。

「ここで頑張りたい」と思える場所

日本一周の末に出会ったのが、奥出雲町の人口約600人の集落だった。最初の印象は、空き家が多く人通りも少ない、少し寂しい場所。だが、地域の人と繋げてもらい、「俺たちは今ここでこういうことやろうと思ってる」という話を聞いたとき、印象がガラリと変わった。

課題の多そうな場所ではあるけど、人のエネルギーを感じて、これからさらに面白くなりそうな場所だなと思いました。

ゴローさんが他の地域を見て感じていたのは、移住者だけで固まって地域を盛り上げようとしているケースの多さだった。それに対して、この集落は地元の人自身が中心に「自分たちの地元を良くしたい」と新しいことに挑戦していた。すでに全国的に有名な地域ではなく、これからさらに面白くなりそうな場所になりそうだとワクワクしたことが、移住の決め手になった。

住み続けられるかどうかは、周りにどういう人が住んでいるかが大きいと思っています。この地域の人たちと頑張りたいと思えたので、ここに決めました。

ただ、移住はすぐに本格化させなかった。アパートを借り、アルバイトを掛け持ちしながら過ごす「仮移住期間」を半年間設け、その中で地域おこし協力隊の応募に合格して本格的な移住を決めた。

いきなり協力隊として来ると、3年という期間は大きい。地域を先に見て、納得した上で決めたかった。

性格的に、決断までに時間がかかるタイプだと自覚していたからこその選択だったという。

本当の意味で決断したら頑張れるタイプなんですが、決めるまでに時間がかかる。だから一度地域で過ごしてみないと、地域おこし協力隊になることも決めきれないだろうなと思っていました。

仮移住期間が、企画の原型になった

協力隊になってからも、「インターンシップのようなものをやりたい」という思いは早くからあった。転機になったのは、ゲストハウス「SLOW HOUSE@okuizumo」の開業だった。空き家を1年かけて地域の人たちとDIYリノベーションし、滞在の場所ができた。

奥留学のプログラムの内容は、ゴローさん自身の仮移住期間の経験が元になっている。移動販売の配達員、温泉旅館のフロント、農業法人でのアルバイト、塾の講師——仮移住期間中にいくつもの仕事を経験したことで、地域の人と関わる時間の価値を実感していた。地域の祭りやイベントに参加できたことも大きかった。

地域の日常と非日常、両方の楽しさを感じられたので、それをプログラムに込めたいと思いました。

仕事体験と暮らし体験を組み合わせ、前半1週間は地域の魅力や取り組みに触れる時間、後半1週間は参加者それぞれの興味に応じて動く自由な時間とする設計になったのも、ゴローさん自身の経験に基づく。

全部こちらでスケジュールを組むよりは、偶発的な出会いや体験が生まれる余白を作りたかった。同じ2週間でも、来るメンバーによって色が変わっていくんです。プログラムをこなすことが目的じゃなくて、来た人と地域が掛け算されたときに何が起こるのか。そこが運営側としても楽しみなところです。

行政、地域、個人——三方よしのタイミング

奥留学が実現したのは、地域の若者の挑戦を後押しする場「おくいずも未来会議」での提案がきっかけだった。

個人としての思い、行政としての思い、地域の方々の思い——それぞれの『こうなったらいいな』をどう組み合わせるかが、進める上で大事でした。

実現の決め手になったのは、地域おこし協力隊として3年間活動してきた中で築いた、行政担当者との関係性だった。未来会議の前から早めに構想を伝えていたこともあったので、スムーズに企画実現に向けて動くことができました。

集客の面でも、2年目を迎えた今、当初の想定を超える反応があった。応募者の中に「いろんな滞在プログラムを見たけれど、奥留学が一番良いと思った」と話してくれる人もいるという。

奥留学が他の就業体験型プログラムと違うのは、決まった就業先で2週間働き続ける形式ではなく、前半は地域の取り組みに触れ、後半は参加者自身の興味に応じて自由に動けるという「ハーフハーフ」の設計にある。

自分自身の興味があることで能動的に動きたいという人に、すごく刺さっているんだと思います。

来てほしいと思っていた層にも、実際に届いている。都会出身でローカルでのキャリア形成への関心はあるが地域滞在をしたことがない学生たちと、キャリアブレイク中にこれからのキャリアを考えたいと思っている層。後者については特に、「外に新しい経験を求めて、能動的に動いていけるタイプ」が相性が良いと、ゴローさんは感じている。

むしょく大学とのコラボレーションで、オンラインセミナーも企画した。ゴローさんのキャリアブレイク経験談や、奥留学の説明を聞きに、31名の申し込みがあった。

キャリアブレイクと地域の相性

地域とキャリアブレイクは、なぜ相性がいいかについてゴローさんはこう語る。

これまでのコミュニティだと、前の自分を知っている人がいるからこそ自分をリセットしずらい。地方で、行ったことのない場所に飛び込むと、一旦人間関係をリセットしてゼロになった自分で始められる。

上司でも友人でもない地域の人という、第三者とフラットな関係を築けて、肩書ではなく一個人として関われる。競争が激しくないので自己肯定感を養いやすく新しいチャレンジがしやすい環境だと思います。


キャリアブレイクは、自治体にとってもプラスだとゴローさんは言う。

自治体関係者にも、キャリアブレイクというカルチャーを知ってもらいたいです。仕事を辞めて、新たな環境を探している方は、中長期の滞在ができるから、地域や自分自身と向き合う時間を作ることができる。

どの自治体も移住者や関係人口創出に向けての取り組みがあると思うので、地域にとってもいいことだと思います。

人生を再構築するためのキャリアブレイクという時間を、地域がただ受け止める。それができたとき、個人にとっても地域にとっても、いい循環が生まれていく。

2026年06月29日

PARTNER

島根県奥出雲町「奥留学」

島根県奥出雲町「奥留学」

石亀ゴロー

東京都出身。大学時代に地方に関心を持ち、新卒で地方創生事業の事業開発部として勤務。「より深く地域で活動したい」という思いで退職し、日本一周の旅へ。島根県で滞在中、人口約600人の限界集落の面白さに触れ移住を決意。 2022年4月〜奥出雲町地域おこし協力隊として3年間活動し、ゲストハウス『SLOW HOUSE@okuizumo』オープン。2025年4月に(一社)おくいずもん代表理事就任。

WRITER

北野 貴大

北野 貴大

代表理事 / 一般社団法人キャリアブレイク研究所

2014年にJR西日本グループに新卒で入社し、都市開発に従事。妻のキャリアブレイクをきっかけに、キャリアブレイク中の人のための宿「OKAYU HOTEL」を2021年にスタート(現在は奈良で運営中)。退職後、一般社団法人キャリアブレイク研究所を理事2人と共に2022年に設立。2023年より、大阪公立大学大学院経営学研究科付属イノベーティブシティ大阪ラボ特別研究員。

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