Career Break Journal

キャリアブレイクとは何か

キャリアブレイクとは何か

― 空白期間から「人生と社会を見つめなおす期間」へ ―

キャリアブレイク概念の変遷

  • 2014年
    • 片岡亜紀子氏が「離職期間における変化」を研究テーマとして取り上げる。
    • 「離職期間は本当に空白なのか」という問いが出発点となる。
  • 2016年
    • 石山恒貴氏らの研究により、キャリアブレイクの初期定義が整理される。
    • 「離職期間のうち、その経験が後のキャリア形成に役立ったと本人が認識している期間」と定義される。
  • 2016〜2021年
    • 離職期間研究が進展。
    • 女性の再就職、越境学習、ライフキャリア、サードプレイスなどの研究領域と接続される。
  • 2022年
    • キャリアブレイク研究所と研究者との交流が始まる。
    • 学術研究と当事者実践が接続される転機となる。
  • 2023年
    • 共同研究が本格化。
    • 「離職期間」から「役割を手放す経験」へと研究の焦点が移り始める。
  • 2024年
    • 『キャリアブレイク―手放すことは空白(ブランク)ではない―』出版。
    • 「これまで中心的に担ってきた役割を手放し、新たな役割へ向けて自分を見つめなおす期間」と定義が拡張される。
  • 2025年
    • キャリアブレイクの共通プロセスが図式化される。
    • 「休むこと」ではなく、「役割から距離を取り、自分を再構成する過程」として整理される。
  • 2026年現在
    • キャリアブレイク研究所では、「人生と社会を見つめなおす期間」という定義を用いている。
    • 個人のキャリア形成だけでなく、社会との関係性そのものを問い直す期間として位置づけている。

「空白期間」という言葉への違和感から

キャリアブレイクという概念は、当初から新しい働き方を提案するために生まれたものではなかった。その出発点にあったのは、離職期間やブランクと呼ばれる時間に対する素朴な疑問である。

履歴書の空欄は説明を求められる。転職活動では離職期間の理由を問われる。長らく日本の労働社会では、働いていない期間は「空白」として扱われてきた。しかし、その期間を経験した当事者たちの語りを丁寧に聞いていくと、そこには空白という言葉では説明できない変化が存在していた。育児や介護に向き合った人もいれば、病気の療養を経験した人もいた。あるいは留学や学び直し、転職準備、地域活動に取り組んだ人もいた。働いていなかった時間でありながら、その経験がその後の生き方や働き方に大きな影響を与えているケースは少なくなかった。

キャリアブレイク研究の起点には、この経験を「空白」と呼んでよいのかという問いが存在している。

キャリア形成の研究から生まれた概念

初期のキャリアブレイク研究は、あくまでもキャリア形成研究の文脈に位置づけられていた。

2016年頃に整理された定義では、キャリアブレイクは離職期間の中でも、その経験が後のキャリア形成に有効だったと本人が認識している期間を指していた。つまり焦点は、休んだことそのものではなく、その経験がどのようにキャリアへ影響したかに置かれていたのである。

この段階では、キャリアブレイクは主に離職経験を対象としていた。したがって、概念の中心にあったのは「職業キャリア」であり、「人生」ではなかった。

しかし研究が蓄積されるにつれ、当事者たちが振り返っていたのは仕事だけではないことが明らかになっていく。

「キャリア」から「役割」へ

研究の大きな転換点となったのは、「離職しているかどうか」ではなく、「役割を手放したかどうか」に注目する視点である。

2024年に出版された『キャリアブレイク―手放すことは空白(ブランク)ではない―』では、キャリアブレイクは中心的な役割を手放し、新たな役割へ向けて自分を見つめなおす期間として定義された。

この定義によって対象は大きく広がる。

離職だけでなく、休職、育児休業、介護休業、学び直し、留学なども含めて考えられるようになった。共通しているのは、働いているかどうかではなく、それまで当然だと思っていた役割との距離が生まれることである。

役割から距離を取ることによって、人は自分自身を見つめなおす機会を得る。その点において、キャリアブレイクは雇用状態ではなく経験の質を示す概念へと変化したのである。

なぜ「人生と社会を見つめなおす期間」なのか

キャリアブレイク研究所が現在用いている「人生と社会を見つめなおす期間」という定義は、研究の延長線上にありながら、同時に研究だけから導かれたものでもない。

研究所には、育児、介護、病気、転職、独立、留学など、多様な経験を持つ当事者たちが集まってきた。その語りを聞き続ける中で見えてきたのは、多くの人がキャリアだけではなく、自らの人生や社会との関係性について考えているという事実だった。

なぜ自分はこの働き方を選んできたのか。なぜ休むことに罪悪感を抱くのか。なぜ同じ生き方が望ましいとされるのか。なぜ働くことが人生の中心であり続けるのか。こうした問いは、自己理解の問題であると同時に、社会の前提に対する問いでもある。

その意味で、キャリアブレイクとは単なるキャリア形成のための準備期間ではない。人がこれまで引き受けてきた役割から一度距離を取り、自らの人生と、それを取り巻く社会の構造を見つめなおす期間として理解することができる。

キャリアブレイク研究所がこの定義を採用しているのは、立ち止まる経験が個人の問題にとどまらず、社会との関係を再構築する契機にもなっていると考えるからである。

2026年06月14日

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