Career Break Journal

 「疑問を持っている人を、受け入れたい」——奈良県営フォレスターアカデミーとキャリアブレイク研究所が共につくった、新しい出会いの入口

 「疑問を持っている人を、受け入れたい」——奈良県営フォレスターアカデミーとキャリアブレイク研究所が共につくった、新しい出会いの入口

「こういう人に来てほしい」はわかっていた。でも、その人たちがどこにいるかがわからなかった——そんな課題を抱える組織は、林業に限らず多いはずだ。

奈良県が設置・運営する林業専門の教育機関、奈良県フォレスターアカデミーも、そのひとつだった。同アカデミーで学生の募集・支援を担う細尾さん・野口さんにお話を伺った。オンラインセミナーの共催から始まり、オープンキャンパスの入口を一緒につくったこのコラボレーションは、疑問を持って立ち止まっている人を歓迎するパートナーとの出会いとなった。

キャリアブレイクとは何か、むしょく大学とは何か

キャリアブレイクとは、一時的な離職休職など、意図的に仕事から離れる期間のことを指す。欧米ではすでに一般的な概念として広まりつつあるが、日本では「空白期間」としてネガティブに捉えられることがまだ多い。

キャリアブレイク研究所は、この期間を「空白」ではなく「余白」として捉え直し、個人の人生と社会のあり方を問い直す文化として根付かせていくことを目指して活動している。法政大学・石山恒貴教授との共同研究をもとにした書籍『キャリアブレイク』の出版をはじめ、企業・HR向けの研修、自治体との連携、コミュニティ運営など、多面的にアプローチしている。

その活動の中核にあるのが、むしょく大学だ。30代を中心として、人生や社会に違和感を持って立ち止まる期間を持つキャリアブレイク中の人々が集まるオンラインコミュニティで、現在2,500名以上が登録している。

むしょく大学に集まる人たちの多くは、「ただ仕事を辞めた人」ではない。これまでのキャリアや働き方、あるいは社会の構造そのものに対して、違和感や疑問を抱えて立ち止まっている人たちだ。次の一歩を急いで踏み出すのではなく、一度立ち止まって、自分にとって本当に大切なことを問い直している。そういう人たちが、ここには集まっている。

[インタビューイー紹介]

(左)細尾宏之さん|奈良県 環境森林部 フォレスターアカデミー 教務課 教務第一係 |奈良県フォレスターアカデミー 学生の受け入れ・支援を担当。キャリアブレイク中の人たちとの接点を通じて、アカデミーの魅力を外部の視点で捉え直すきっかけをつくってきた。

(右)野口貴士さん|奈良県 環境森林部 フォレスターアカデミー 教務課 教務第一係|奈良県フォレスターアカデミー 開校当初から学生の募集・就職支援を担当。自身も山村で生活しており、林業と地域社会のあり方を長期的な視点で考え続けている。

「担い手不足の解消」ではなく「会社を変える人材を育てたい」——フォレスターアカデミーが求める学生像

奈良県フォレスターアカデミーは、奈良県が設置・運営する林業専門の教育機関だ。2年制または1年制のカリキュラムで、林業の基礎技術から森林管理・マネジメントまでを学ぶことができる。卒業後は林業事業体への就職を目指す、いわば「森林管理のプロを育てる学校」である。

開校から6年目を迎え、さまざまな年代・バックグラウンドを持つ学生を受け入れてきた。その中で、野口さんが実感してきたことがある。

特に活躍してくれた学生、会社に入ってから本当に変革を起こせる人というのが、20代・30代で一度仕事を辞めて、これからのキャリアをどうしようかと考えてこちらに来た人たちだったんです。4年ほど、ずっとそれが続いていました

彼らが求めているのは、「担い手不足を解消するための即戦力」ではない。

言われたことをただやる人じゃなくて、普段から働く中で疑問を感じて、この会社の組織体制ってどうなのかな、この仕事の意味って何だろうって考えられる人。そういう人こそが、会社を変えていける人だと思っています

疑問を持っている人を受け入れたい——それがフォレスターアカデミーの、根っこにある姿勢だ。

一般的な転職サービスでは届かない。「条件より意味を重視する人」へのアプローチ

アカデミーとしては以前から、一般的な転職サービスへの出稿も行ってきた。ただ、課題もあった。

林業は正直、給与面で他産業に比べて高いとは言えない。条件面を一番重視している転職者層には、なかなか刺さらないんです。自然の中で働きたいとか、社会的な意義のある仕事がしたいとか、給料以外のところを重視している人にアプローチしてみたいという気持ちがずっとありました

そこへ、キャリアブレイク研究所からコラボのお声がけをした。最初は不安もあったと、野口さんは率直に語ってくれた。

むしょく大学さんのホームページを拝見した時、ゆるい雰囲気というか、うちの学校は平日ガッツリ授業がある学校なので、そこがマッチするのかという不安はありました。それに、キャリアブレイク中の方たちとそんなに接したことがなかったので、どんな方たちなのかもわからなかった

それでも、コラボを決めた理由があった。

むしょく大学さんを見ていると、学びのイベントをされていたり、ターゲット層としてはドンピシャだなとは思っていたんです。林業を選んでくれる人はそんなに多くないかもしれないけれど、林業のことを知ってもらうだけで、将来関わりが出てくるかもしれない

そして、もう一つの決め手になったのが、むしょく大学のカルチャーそのものだった。

一般的な転職イベントに来る方の多くは、条件面を最重視している。でも、キャリアブレイクという文化自体が、転職やブレイクをポジティブに捉えているじゃないですか。その文化の中にいる人たちなら、前向きな人が絶対にいる。ポジティブな人にアプローチできるのが、決め手でしたね。

オンラインセミナー申し込み14名、オープンキャンパスへ2名——数字より大切な「質」の手応え

2025年度、キャリアブレイク研究所とフォレスターアカデミーは、むしょく大学の会員向けにオンラインセミナーを共催した。林業という仕事の実態、アカデミーの学び、卒業後のキャリアなど、参加者がリアルな疑問を持ち寄れる場を設計した。

セミナーへの申し込みは14名。そのうち2名が奈良県まで足を運んでオープンキャンパスに参加し、1名が受験に至った。

野口さんはこの数字を、こう受け止めている。

ホームページや広告を見て2名来たというのとは、レベルが違うと思っています。1〜2時間の話を聞いた上で行きたいと思った2名ですから

受験に至ったのが、作業療法士として長年働いてきた30代後半の女性だ。臨床の現場で森林を使ったリハビリを取り入れた際、患者が自然の中で心身の活力を取り戻していく様子を何度も目にした。その経験が、「今度は森を守り育てる側に回りたい」という思いに変わっていった。フォレスターアカデミーの「森と人が共生していける未来を創る」という理念を知り、セミナーに参加。奈良まで足を運び、受験を決意した。

セミナーの場での質問内容も、印象的だったという。

労働環境のことや、やりがいのこと、ごく普通の質問でした。ブレイク中だからといって特別なわけじゃなく、次の仕事をきっちり考えている方たちだなと。最初の懸念はすっかり払拭されました

オープンキャンパスに参加した方は、林業に興味はあったが「職人的なセンスが必要な難しい仕事」というイメージを持っていたそうだ。

話を聞いて、0から教えてもらえるし、資格も取れるし、雇用されて月給をもらいながら働けると知って、想像していたよりハードルが高くないと感じていただいたようです。木を切るだけじゃなくて、森林のマネジメントまで、仕事の幅が広いとも

「探していたターゲットが、ここにいた」——コラボが照らし出した気づき

今回のコラボを通じて、アカデミー側に大きな気づきがあったと細尾さんは語る。

キャリアブレイク中の方から見て、フォレスターアカデミーはどう映るのか。その視点で、自分たちのことを客観的に見直すきっかけになりました。林業界にいると当たり前になっていることがある。でも、転職を検討している方にとって、林業はどのくらい馴染みがある職業なのか。どの入り口から伝えると届くのか。そういうことを改めて考えさせてもらいました

そして、もう一つの大きな気づきがあった。ターゲットの「居場所」がわかったことだ。

アカデミーが求めてきた学生像は「働く中で疑問を感じ、立ち止まって考えられる人」だった。そしてむしょく大学に集まっているのは「人生や社会に違和感・疑問を持って立ち止まっている人」たちだ。この二つは、ほぼ重なる。

今まで、こういうキャリアを考えている人がターゲットだというのはわかっていた。でも、その人たちが集まっている場所を見つけるのが難しかった。キャリアブレイクという文化の中にいる人たちがここにいると、それがわかっただけで、可能性がすごく広がった感覚があります

ターゲットは最初からいた。ただ、どこにいるかがわからなかっただけだった。

林業という選択肢を、まず知ってほしい——キャリアブレイク中の人へのメッセージ

野口さんは、こんなメッセージを語ってくれた。

林業に関わる仕事があるということを、もっとたくさんの人に知ってほしいんです。知った上で『自分には合わないな』は全然いい。でも、知らないまま選択肢から外れているのは、もったいない。聞いてさえもらえれば、興味を持つ人はそれなりにいると思っています

林業の世界は少人数で働くため、1人の価値が大きく、「自分がやっている」という実感を持ちやすい。また、「田舎に引っ越さなければならない」というイメージを持つ人も多いが、奈良県の場合、県内市街地から通いながら林業ができる地域や林業事業体も比較的多いです。

絶対に田舎に住まないと林業できない、ということはないんです。まずは一回、イベントに来ていただいたり、コンタクトを取ってもらえたら嬉しいです

2026年04月25日

PARTNER

奈良県フォレスターアカデミー

奈良県フォレスターアカデミー

奈良県 環境森林部

(左)細尾宏之さん|奈良県 環境森林部 フォレスターアカデミー 教務課 教務第一係 |奈良県フォレスターアカデミー 学生の受け入れ・支援を担当。キャリアブレイク中の人たちとの接点を通じて、アカデミーの魅力を外部の視点で捉え直すきっかけをつくってきた。 (右)野口貴士さん|奈良県 環境森林部 フォレスターアカデミー 教務課 教務第一係|奈良県フォレスターアカデミー 開校当初から学生の募集・就職支援を担当。自身も山村で生活しており、林業と地域社会のあり方を長期的な視点で考え続けている。

WRITER

北野 貴大

北野 貴大

代表理事 / 一般社団法人キャリアブレイク研究所

2014年にJR西日本グループに新卒で入社し、都市開発に従事。妻のキャリアブレイクをきっかけに、キャリアブレイク中の人のための宿「OKAYU HOTEL」を2021年にスタート(現在は奈良で運営中)。退職後、一般社団法人キャリアブレイク研究所を理事2人と共に2022年に設立。2023年より、大阪公立大学大学院経営学研究科付属イノベーティブシティ大阪ラボ特別研究員。

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